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東方SS「kappa after」

 Twitterのにとりbotが今日の事について触れていたので、それに触発されました。
 久しぶりに百合じゃない物を投下します。


 今日7月24日は芥川龍之介の命日です。死因は服毒、こういう文章を書く方に多いのですが氏も例外ではなく自殺です。そのときに河童を連想させるような詩を残したということで、この日を河童忌と呼びます。

 芥川龍之介がどういう風に東方とかかわっているのかを改めて説明する必要もないでしょう。にとりを語り、そのキャラクターを書く上でこの「芥川龍之介の河童」に自然と触れることになると思います。

 今回投下するSSは第6回東方紅楼夢にて頒布した「k6project」に参加したときの作品です。合同企画、どんな形で参加してもOKということでにとりを書くしかないと思いました。
 サークル「雨降らしの竜」一番最初の本「ヨウカイノウタ」は結構ひねくれた話を書いたと思っているので、今回はこの「芥川龍之介の河童」をテーマ、モデルにストレートに河城にとりを書きました。
 にとりと人間の邂逅を読んでもらって、少しでも何か思ってもらえればいいなと思います。



 これはとある凡人が、生涯誰にも話さなかった物語である。
 彼はサラリーマンとして定年まで働き、その間に結婚。子供は二人。そんな彼の死後、子供たちが見つけた古いノートがあった。
 彼は真面目で優しいということで周りに認知されており、そのおかしな内容に家族は皆、不思議に思った。
 それには『河童の国に行った』というようなことが書かれてあった。



Kappa after



 仕事の帰り川沿い。秋の空は高く、人間が自力で飛ぶことができない空を僕はぼんやりと見ながら歩いていた。
 今日も一日なにもなく、つまらない仕事だけが終わって、今日も日が落ちるころに会社を出る。明日もそんなことが続くんじゃないかと憂鬱に思っていると、ふとおかしな女の子を見つけた。
 二つに結った青っぽい髪に、緑の帽子、水色の作業着みたいな服はなんとなく不思議と思えるものだった。なんというか『この世界のもの』とは思えない感じがした。
 それがどうしても気になって、その女の子を追いかけてみることにした。
 髪を揺らしながら早足で駆けていく女の子。表情は分からなかったけど、急いでいるようには見えない。
 こっちにおいで、そう見えた。
 彼女は山の林に入っていったと思った。さすがにそこで追うのをやめようかと思ったけど、僕はそこで変なものを見つけた。
 空間の隙間……とでも言うのだろうか? 木々の生い茂る場所に、紫色のなにかが見える。
 さっきまでいた少女は、いつのまにやら見えなくなっていた。もしかしたら、この空間に入っていったのかもしれない。
 非現実的なモノの連続で感覚がおかしくなっていたのか、怖さよりも好奇心のほうが強くなっていった。
 その『空間の隙間』とも言えるものに手を伸ばす。
 すると急にそれに引っ張られて、僕はそれに放り込まれた。





「あ、気がついた」
 目を覚ますと目の前には髪を二つに結った、目の大きな女の子がいた。歳は十代ぐらい、もっと幼いかもしれない。
「林の中で倒れてたんだよ。大丈夫?」
 林の中……。確かに林の中にいたけど、それ以外をよく思い出せない。彼女の蒼い瞳に見つめられながら、自分の意識がなくなるまでの記憶を整頓する。
 まず、変な女の子を見つけた。女の子?
「どしたの?」
 この子だ。翠の帽子に青っぽい髪に、変な格好の女の子。あそこで何をしていたのか聞いてみると、
「おん? わたしはそんなとこに行ってないよ」
 どういうことだろう。
「む、もしかして外の世界から来たの?」
 外の世界、まるでここが僕がいた世界とは違う世界みたいな言い方だ。映画とか小説みたいなファンタジーじゃないんだから、そんなこと――
「ここは幻想郷。忘れられたモノがたどり着く楽園だよ」
 ……どうやら本当らしい。
「うん、それでね。君がここに来ちゃったのは、私のせいかもしれないんだ……」
 彼女はそう言って話を始めた。


 要約するとこうなる。
 彼女は幻想郷では機械の技術などの進んだ種族、河童なのだという。ぜんぜんそうは見えないけど、信じることにする。彼女の作った『外の世界へ行くことができる機械』の暴走で自分がここまでやってきたのだという。僕が見た彼女は幻覚のようなもので、自分は実際には来てないのだという。
 そしてその機械はこわれているようだ。
「絶対に外の世界に戻してあげるからね」
 と彼女は言う。
 どのくらいかかるか分からないけど、しばらくはこの世界で生活することになりそうだ。





 彼女、河城にとりは僕が元いた世界のことにとても関心を持っていた。その中でも機械のことをよく話したことをよく覚えている。というより、このころはほとんどその話ばかりだった。
 彼女が機械を直しているときも、食事のときも、話してなかったのは本当に寝てるときぐらいだった。自分でもこんなによく話ができるなと思うぐらいにしゃべった気がする。にとりもよく飽きずにこの下手なしゃべりを聞いていたものだ。
 そんな僕も、にとりにこの世界のことを聞いた。この世界『幻想郷』は僕たちの世界で忘れられたもの――『幻想』になったものがたどり着く場所なのだという。にとりの家や、人里と呼ばれる町を見ればそれがなんとなく分かった。説明がなかったらタイムスリップしたと錯覚したかもしれない。
 そしてこの世界には妖怪がいる。いまや存在しないと言い切られるような存在がここにはいる。僕のいた世界でそういう風になってしまったから、ここにいるのかもしれない。
 目の前にいるにとりも『河童』なのだという。水を操る能力や空を飛ぶところを見せられたら信じないわけにもいかないだろう。
 そんな話をし尽くすと今度はお互いのプライベートのことを話し始めた。
「おん? どうして自分にやさしいのかって?」
 にとりからすれば自分は本当に赤の他人。こんなによくしてくれる理由が分からないでいた。僕のいた世界ではまったく考えられない。見て見ぬ振りをするのが当たり前のリアクション。
「そりゃ、今回のことはわたしに原因があるからね……、それに」
 それに?
「人間は盟友だから」
 盟友。それは違う世界の者でも?
「もちろんだよ」
 と、にとりは元気を分け与えるような笑顔で言う。
 そんな考え、自分のいた世界では考えられないことだ。家族だって信じられないことがあるのに、種族も違う赤の他人にやさしくできる。
 こんなやさしさも『幻想』になってしまったのかも思うと、それは淋しいことなんだなと感じる。





 そんな感じで季節も変わった。自分がいない間、もといた世界ではどうなっているか気になるところではある。失踪ってことになってるだろうか、神隠しにあったとか言われてるんじゃないだろうか、いろいろと考える。
 それでも慣れてきたここでの生活もいいものだなとかのんきなことを考えるほどには余裕ができた。
 そんなお昼過ぎ。
「できたー」
 と、にとりの元気な声が聞こえてきた。でもなんだか無理やり上げたようなテンションの声にも聞こえる。
 にとりの工房に行ってみると、大きな鏡のような物が置いてある。ちょうど人一人が映るような鏡。これに入れば戻れるってことかな?
「うん……」
 気のない返事。
 なんだかんだでにとりとはすごく仲良くなった。他に話すような相手がいなかったからというのもあるんだろうけど、元いた世界の友達よりもいろいろなことを話したような気がする。
 もしかしたら、帰ってほしくないとか?
「そんなんじゃない! そんなんじゃ……」
 やっぱりそうなのだろうか。そう聞くとにとりは観念したみたいに、
「そりゃ、本音は分かれたくないよ。こんなに仲良くなった人間は初めてだし、その……いつまでも一緒にいたいよ。でも帰りたいでしょ?」
 正直にうなづく。
「だから、ねっ」
 ずいずいと僕の背中を押す。
「さっさと行くっ。そうじゃないと……」
 じゃないと?
 その続きが気になり、僕が後ろ向くと。
「見るなよぉ」
 帽子で表情は見えないけど、鼻をすするにとりがいた。
「見るなって……。顔見たらその……別れたくなくなるじゃないかぁ」
 ついには両手で顔をかくして、子供のような声で泣き出す。別れたくないのは、僕だけじゃないみたいだ。
 にとりは機械を直すときどんなことを考えていたんだろうか。最初は僕と話しながら楽しそうに作業をしていたけど、これの完成は僕との別れをそのまま意味する。
 別れたくなければ、作業がなかなか進まない振りをしていればいい。この機械のことは僕にはさっぱりだし、手伝うことすらできなかった。だからそういうこともできたはず。
 でもにとりはそれをしなかった。
 自分の責任だと、そう言って機械を直して僕を元の世界に戻れるようにしてくれた。
 しゃくり泣きをするにとりの頭をなでて、礼を言う。
 僕のためにがんばってくれたことに感謝しないといけない。
「うん……」
 と返事をすると顔を真っ赤にしながら一所懸命に笑うにとり。それでも逆流しそうな感情が目から流れている。
「元気でね。大好きな人間……」
 それでも最後に、にとりの笑顔が見れたことが僕にはうれしかった。





























 夢っていうのは記憶の整頓の最中に見るものだとアリスが前に言っていた。でもそれ以上の意味があると霊夢は言っていた。魔理沙は両方だという。
 そんなことはわたしにはあまり関係がないと思うんだけど、今日の夢はどうしてもそういうことを考えさせられるようなものだった。
 過去の出来事。わたしの発明で外の世界の人間をこちらに連れてきてしまったことがある。なんとか元の世界に戻したと思うんだけど、実際に戻れたかが分からないから、もしかしたらまた別の世界に飛ばしちゃったんじゃないかと不安になるときが今でもある。かれこれ10年以上も前のことなのにね。
 それ以降、わたしは外の世界に行く方法や博麗大結界に影響しそうな発明を作るのをやめている。使った装置はまた壊れてしまい、以降修理もせずに封印している。
 山の外れにある人間も妖怪も近寄らないような場所に『鍵』をかけて封印した。自分が二度とそういうことを起こさないように。
 そこで目が覚める。


「あれ? ない」
 鍵だ。わたしがいつもつけている鍵がない。
 昨日寝るときにとったのは覚えてる。そのときまではあったはず。そして、朝起きるとなくなっている。
 とりあえず、この散らかった部屋に落ちてる可能性もあるので、まずはそれをあたってみる。工房も相当だけど、わたしの自室も結構散らかってる。魔理沙にも言われたことあるけど、そんな魔理沙は家の外も散らかっている。少しは整頓しようよ、乙女なんだから。
 たまに雛が片付けたりしてくれるけど、わたしがすぐにまた散らかすのでやっぱり散らかってるこの部屋。珍しく自分で片付けてみたものの見つからない。
「やっぱりないなぁ……」
 どこに行っちゃったんだろう。






「それで私のところに」
 うん、とうなずく。
「鍵だけに私のところにきたと」
「うまくないよ」
「厄いわね」
 別にそんな理由じゃないんだけど、やってきたのは雛の家。名前の割には洋風なお屋敷だったりする。客間と雛の部屋以外に行くと厄が付くっていうちょっと怖いところもあるけど綺麗な家だとわたしは思う。散らかってないし。
 それはともかく雛に鍵の件を話してみる。
「それだけ探したのなら本当にないと思うわ」
 わたしの理解者の一人である雛が言うなら本当にそうだと思う。わたしよりもわたしの部屋を把握してるんだからね。
「う~ん、となると心当たりがないなぁ……」
 昨日までは確かにあった。さすがに寝るときは寝巻きを着てるから、こういうアクセサリーの類ははずしてる。だからなくすとしたらそのあと。
「命蓮寺のねずみに探してもらったらどう?」
 文様の新聞にも書いてあった『卑近なダウザー』とか紹介されてたねずみかぁ。確かにお願いしたら見つけてくれそう。
「でも命蓮寺を信仰しろ、なんて言われそう」
 山の妖怪はみんな守矢神社を信仰するようになった。わたしは信仰とかよく分からないから、早苗さんや諏訪子様を信仰するというより、仲良くしてるって感じなってる。諏訪子様はそれでいいよと言ってるしいいみたいだ。
 でもそれでいて命蓮寺の人たちと仲良くしたら、なにか起こらないかな?
「あら、信仰する相手は一人じゃなくてもいいのよ」
「神様それでいいの?」
 雛が信仰に関して話をするのは珍しい。厄神は嫌われて当然って雛も言ってたし、自分が信仰される神様ではないのは知ってる。
 信仰がないと生きられない神様の一人である厄神がどうして信仰なしで生きられるのかはまた厄い理由があるらしいけど、それはおいておいて。
「あなたが私と仲良くしている。それだけで信仰に値するのよ」
 雛も諏訪子様と同じことを言う。そういうものなのかなぁ。
「ん~、じゃあ他をあたってみようかな」
「それがいいかもしれないわ」
「うん、ありがとね、雛」
 雛の淹れた冷たいお茶を飲み干して、部屋から出ようとすると、
「にとり……」
 雛がなにか言いたそうな顔をしてわたしを見送った。
 雛との付き合いも長いからなぁ、わたしがいろいろ考えてるのに気がついてるのかな。





 秋の高い空を眺めるとなんかさびしくなる。なんでだろうかとたまに考える。
 今日夢で見たあの日もこんな日だった。
 そんな空にあまり見ない黒い羽を見つけた。
「おや、河城のとこの河童じゃない」
「これははたて様。珍しいですね、外に出てるなんて」
 山では河童の上の立場にある天狗、その中の鴉天狗の姫海棠はたて様。花果子念報というマイナーな新聞を出してる方。最近その新聞が少しずつ有名になってきてるらしい。
「最近は自分の羽で取材して回ってるの」
 同じ新聞仲間でライバルの射命丸文様の影響なのだろうか。
「探し物? 見つけにくいもの?」
「うんー、リュックの中も、机の中も探したけど見つからなくて」
「手伝おうか?」
 一緒に踊りませんか?って聞かれるかと思ったけどそんなことはなかった。
 でも手伝おうかって、でもこの方も新聞記者。文様みたいに手伝う振りして後日新聞のネタにしたりするだろうなぁ。
「なにさがしてるの?」
「鍵……」
 わたしがつぶやくとはたて様も気がついたのか、胸元を見る。違和感があるんだろうけど、わたしも違和感がたくさん。
「念写してみよう。えっと『河城にとり 鍵』っと」
 とはたて様はピコピコとカメラにキーワードを打ち込む。
 はたて様のカメラはキーワードを打ち込むとそれに合う写真を撮ってきてくれるという機能がある。それとはたて様が本来持ってる念写能力で質のいい写真を持ってくることができるとのこと。
 実際にその場に行って取材してるわけじゃないので、肝心の記事の方は……察して。
 カシャと音がする。撮れたみたいだ。
「なんか人間が写ったんだけど」
 縦長のカメラに写ったのは、箒に乗った黒白の魔法使い。わたしが知ってる限りこれに該当する人間は一人しかない。
「魔理沙が持っていった?」
 何のために? 魔理沙にはこの鍵がなんなのかなんて教えた覚えはないんだけど……。
「ここって山? こんなところあったかしら?」
 とはたて様がつぶやく。
 この場所……。やっぱりそうだ。
「はたて様、ありがとうございますっ」
 わたしは返事を待たずにその場所に向かった。
「あたしも行くー」





 『運命を定めるものは信仰と境遇と偶然とだけ』となんて言うように、今朝の夢もそうやって定められたのかもしれない。
 明日の枝葉を分けていたのは多分あの装置を作ってから。
 その先に魔理沙がいるとは思わなかったけどね。これは偶然という要素なんだろう。
 高い崖の下。人も妖怪もここに洞窟があるなんて思わないだろう。でも長く生きていればこうして見つかるものなんだなぁ。
「おう、にとりか。鍵借りてるぜ」
 ちょうど鍵を開けたところのようだ。
「どうしてこの鍵だって分かったの?」
「この狭い幻想郷、鍵を大切に持ち歩いてるやつなんてお前くらいだぜ」
 魔理沙といい霊夢といい文様といいはたて様といい、この勘の良さには驚かされる。
「で、ここには何があるんだ?」
「あたしも知りたいわ~」
 やっぱりはたて様も付いてきていた。こうなったら話さないわけにはいかないかな。
 多分、わたしも話したがってた、そんな気がする。
 魔理沙より先に洞窟の中に入る。暗い空間にはたくさんの発明がおいてある。入ってすぐ左にあるスイッチを入れるとランプがつく。
「ここはね、わたしの発明の中で恥ずかしいもの、危ないものを封印してある場所なんだ。最近は失敗作を作らないからここに来ることもなくなったんだけどね」
 中をコツコツ歩きながらお二人に説明する。魔理沙が黒い箱に触ろうとするのが見えた。
「見ても分からないと思うよ」
 魔理沙がやれやれという顔。わたしも覚えてないもん。
 そしてさらに奥に行くと、割れた鏡のような物がおいてある。これが、
「これがわたしが一番封印したかったもの。しなくちゃいけないもの。他の失敗や危ないものよりも見られたくないものなんだ。時間はある? 少し長話になるよ」





「そっか、それじゃこの件は記事にはできないわね」
 とはたて様。
 わたしの昔話を二人は黙って聞いててくれた。あまり面白くない話だったのにね。
「ここにいるのがあたしでよかったわ。文だったらそれでも新聞にしてたわよ」
 まぁ……確かに。でもあの方もそこまで天狗でなしじゃないと思うけど。
 ずい、と鍵が突きつけられる。魔理沙が帽子を深くかぶって、
「その……悪かった」
 わたしは鍵を受け取りながら、
「いいよ、、そもそも悪いのはわたしだもん」
「いや、お前は悪くない。その人間を帰してやろうと頑張った。お前を怒れるヤツなんていないぜ」
「うん、ありがと」
 魔理沙から鍵を受け取る。そう言ってくれるとありがたい。
「ねえ、今の話を聞く限り、その人間が元の世界に帰れたか分からないんだよね」
 はたて様の言うとおり元の世界に帰すことができたかわからない。もしできてなかったらどうしようか。
「あたしの念写でその人間を撮ってみる? できるかわからないけど」
 わたしも魔理沙も目を丸くした。
 確かにはたて様の能力なら外の世界を撮ることもできるかもしれない。新聞の中には外の世界の写真もあったような気がする。
「でも……」
 答えを知るのが怖い。
 もしこれで彼を元いた世界に帰せていなかったら、わたしはもう生きていられないかもしれない。人間に、盟友にひどいことをした河童なんて生きている価値がないんだ。
 鍵を見つめる。わたしの罪のあかし。
「怖いか?」
 魔理沙が気を使って聞いてくれた。
「うん……。でも、知りたい。ここで逃げたらダメな気がするんだ」
 そう言うと魔理沙はわたしの頭をなでる。河童なのに皿のないわたしの頭。甲羅もないし河童らしいのはきゅうりが好きなところぐらい。昔はそれでよくいじめられたりした。
 人間みたい。
 でも良く考えたら人間と変わりない外見ってのは人間と仲良くできるのにいいものなんじゃないかと思える。もしわたしが普通の河童の姿だったら、あの人はわたしを怖がったかもしれないから。
 あの人と出会ったことは事故でも、わたしには大切な思い出になった。だから、
「はたて様、おねがいします」
「りょーかい。その人間のことありったけ教えて」
 わたしは彼のことを話し始める。外見、性格、声だって今でも覚えてる。どんな話をしたか、どんなことを話したのか、わたしの作った漬物をおいしいって言ってくれたこととか、わたしが見てない間に家事とかしててくれたこととか、思い出はたくさんある。
「楽しそうだな」
「うん……、あのときのことをこうして話すのって初めてだからかな」
「それもそうだが、そいつのこと好きだったんだろ」
 好き……人間は盟友とかそういうことは言うけどその『好き』って言葉を使ったことはなかったかも。今、魔理沙に言われてはじめて意識した。これが『好きになる』ってことだったんだ。今さらだね、でもね、うれしい。
 そんな好きな人間と一緒にいられた時間というのは、すごく楽しいものだったんだって想える。そんな思い出を今まで厄く扱ってたんだ。そう考えるとちょっと後悔と反省とごめんねという感情を覚える。
「よし、やるわ」
 はたて様が念をカメラに送る。わたしも魔理沙もそれを見守る。
 カシャ。という音がした。念写できたようだ。でもあの人間が写ってるかどうかは見て見ないと分からない。
「どう? この人間?」
 はたて様がわたしと魔理沙に取れた写真を見せる。外見とかは近いけど、ちょっと違う。
「んじゃ次ね」
 ボタンを操作して次の写真を写す。映っていた人間は結構違う。
「これは?」
「違う……」
「んじゃこれ」
「こーりんじゃないか。外の世界じゃないし、半分は人間でもないぜ」
「これ」
「…………」
「ほいこれ」
「女じゃないか、お前の写真もなかなかにひどいな」
「文と一緒にしないで! これは!」
 100回ぐらい同じことを繰り返した。
「最後、これは?」
 はたて様がやけになって見せてくる写真。
 写真には見慣れない場所にいる男が写されていた。でもその男は知っていた。
「こいつか?」
 魔理沙がわたしに聞くけどわたしはうまく声が出せず、うんともすんとも取れない声がでる。
 目からは逆流する感情と川、わたしの頬を滝のように流れる。
「彼だ……」
「こんなとこ幻想郷にないし、外の世界ね。わたしの念写もなかなかのものでしょ?」
「100枚以上出して目的のが1枚じゃ精度は低いけどな」
「なにお~」
 はたて様と魔理沙がじゃれあってる。でもわたしはそれに混ざれない。
 うれしくて、うれしくて、うれしすぎて、涙が出る。
 おかしいな、涙が……止まらないよ。
 彼の写真を改めて見る。10年たってるからか、見て分かるほど歳をとった外見になっている。
 でも、わたしが最後に見た笑顔と同じ。
 人間はわたしたち妖怪よりも早く歳をとる。そしてわたしたちより早く亡くなる。それでも、10年前と変わらない表情をしてて、彼は今でも優しいことがこの1枚だけで分かる。
「にとり、よかったな」
「あたしも、久しぶりにいい話に出会えたよ」
「うん、魔理沙も、はたて様もありがとう」
 わたしは涙を拭いてがんばって笑う。
 彼みたいに、優しく、笑顔で生きたい。
















 気がつくと僕は元の場所に立っていた。
 白昼夢……、だろうか。でも夢にしては起こった出来事を鮮明に思い出せる。
 ケータイを確認する。日付は変わっていない。時間は数分しかたってないみたいだ。何ヶ月もにとりと生活してたのに数分。
 ……疲れてるのだろうか? 何事もないといっても大事がないだけで、文句言われたり怒られたりはしてて、それでも文句を言わずに仕事をしてるからストレスとか鬱憤とかがたまってるのだろう。それであんなにいい人――じゃなくて河童か――に出会うなんて、夢を見るんだ。
 そいえば河童の国に行くなんて小説があったな。中学生か高校生のときに授業で読んだ覚えがある。確か『芥川龍之介の河童』だ。
 僕は精神病患者ではないと思うけど、その主人公と似たようなことを体験したような気がする。こことは違う世界に行って、こことは違う価値観の河童と生活をして、そして帰ってきた。
 彼は人間の世界に絶望していたけど、僕はまだこの世界を見捨てるには早いと思っている。だから河童の世界に戻ってまた生活したいとは思わない。
 でも、にとりとまた会いたいとは思う。
 もう二度とあそこに行くことはできない気がするし、にとりも僕と会いたいと思っても僕をまた連れてくるようなことは絶対にしないと思う。
 せめて、無事に帰れましたということを伝えられればとは思うけどその方法にまったく見当がつかない。
 ……帰ろう。そしてまた明日頑張ろう。
 もしにとりとの生活が夢だったとしても、この夢は僕にいろいろなことを教えてくれた。人に優しくすることの大切さ、一緒にいることの楽しさ、言葉にはできないこともいろいろ教わったと思う。
 それは忘れちゃいけないこと、幻想にしちゃいけないことなんだ。
 この世の中で忘れられても、僕が覚えていれば幻想にならないかもしれない。なら僕は人にやさしくしていきたい。
 帰ったらこのことをノートか何かに書いておこう。人に見せられるものじゃないけど、残しておけば幻想になったりはしない。それも僕にできることのひとつだと思う。
 にとりに教わったこと、絶対に忘れない。







 引用、参考(敬称略)                      
 芥川龍之介「河童」                   
 COOL&CREATE「人間が大好きなこわれた妖怪の唄」
 岸田教団&THE明星ロケッツ「芥川龍之介の河童」



 あとがき

 このSSを書いてた頃には雛の身の回りの設定やはたてのキャラ付けなんかが決まってましたね。それがそのまま笑顔の季節シリーズで使われてたりします。

 修正した点は各人の一人称だけ。にとりのを「わたし」 はたてのを「あたし」に書き直してます。みんなばらばらすぎた・・・。


「芥川龍之介の河童」は現代社会を批判するような内容でした。主人公が河童の国から戻ってきたあとどうなったかは読んだ方は分かると思います。
 あれやこれやとニュースを見てるだけで憂鬱になりそうな世の中ですが、それでもこの世の中で希望を持って生きていたいですね。
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