スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「モミジ舞う、だいだい色の木の下で」サンプル

 というわけで(何が)サンプルとして第一章を丸々公開します。
 PDF形式で上げられなかったのでいつもどおりに上げます。読みづらいかな・・・。
 A6(文庫サイズ)で大体30ページくらい。お時間のあるときにどうぞ。








    第一章
        気になる猫さん






 山の色が緑から赤に変わった、最近変わったことといえばそこだけで特に異常もない今日。
 高い秋空の下、僕『犬走椛』には気になることがあるッス。異常とか異変とかそういうのではないし、上司に報告しなくちゃいけないことでもないッス。
 川沿いで日向ぼっこをしている一匹の化猫さん。僕はずっと子のこのことが気になってるッス。
 紅葉の舞う秋のような赤い服、寝息に合わせてピクピク動く耳、体の暇をもてあそぶかのように動く尻尾、そして無防備なその顔を僕はなんとなく可愛いと思ってるッス。
 そして人生(天狗生)ため息ランキング第一位に輝くであろうため息をつく。デイリーランキング更新ッスね。
「も~み~じっ」
 後ろから声をかけられた。反射的に背中の刀に手を伸ばし、僕の背中を取った相手を確認する。いくら暇でボケーっとしていたとはいえ、哨戒天狗の背中を取った相手は只者ではないと思ってたら、
「にとりッスか……」
 なんてことはない。友達で河童の『河城にとり』ッス。よく将棋や麻雀を打ったり、発明を見せてもらったりする、河童の中では変わり者に分類される僕の友達。
 皿の変わりに緑の帽子をかぶり、甲羅の変わりに大きなリュックサックをしょっている。そんな外見的にも変わってるし、里の人間や魔法使いたちに積極的にかかわってるあたりもやっぱり変わっている。
 妖怪の山では天狗である僕の方が上の立場なんッスけど、上と言っても哨戒担当の白狼天狗はあまり高い地位じゃないッス。なんでこういう風にタメ口で話すようにしてるッス。
「な~に~、また橙のこと見てるの? しかもこんなに遠くからさ」
 双眼鏡をどこからともなく出して僕の見てたとこと同じとこを覗く。
 僕には遠くを見渡す『千里眼』ともいえる能力を持ってるッス。普段は山の警備に使われる能力は今は別の用途に使われてる。この能力のおかげでここら辺の白狼天狗の部隊を仕切ってたりするんッスけどね。
「もっと近くで見ようと思わない?」
 確かに近づいて話をしてみたいッスよ。でも山にいる天狗は結構怖い存在だと思われてるらしいし、怖がらせてしまうかも。そう考えるとやっぱりこうして遠くから見てるしかないんッスね。
「このままでいいッス」
「そう?」
 うん、とうなずく。
 気になるだけッス、気になるだけ。
 橙さんが寝返りをした。スカートの中が見えそう。
「シャッターチャンスですね」
 横にいた人がいつの間にか変わっていた。にとりの双眼鏡を借りて、僕と同じところを見てる僕の上司に当たる、
「あやややや文様」
「私の台詞ですよ、盗らないで欲しいですねぇ……」
 白狼天狗の上の立場にある鴉天狗、『射命丸文』様。自称幻想郷最速――実際本当に早い――そのスピードで毎日たくさんの人間や妖怪を取材して『文々。新聞』という新聞を出している。一部の妖怪には評判がいいらしい。この方とはよく話をしたり、雑用をまかされたり、取材を手伝わされたりしてるので仲がいい――ということになっている。
 敬語、ということは取材なんだろう。いつものカメラを僕にかまえてパシャリ。
「天狗と化猫の恋。今は片思い。こんなんでどうでしょう」
 とまぁ、最近はこういう妖怪や人間の恋愛を取材するのがブームらしく、そうい
う匂いがちょっとでもあると、こうして都合よく解釈したりする。にとりも記事にされたことがあるけど、あれは模造でもでっち上げでもなく、本当らしい。
「禁断ってつけてみたらどうです? 萌える気がしますよ」
 そんなことがあったのに、ノリノリで面白おかしく脚色のアイディアを提供するにとり。
「そうですねぇ、禁断だとちょっとありきたりですけど、もう一言ほしいですね」
 いやいや、あなたたち何を勝手に話を進めてるんッスか。
「んじゃ、話を変えて。『犬走椛フトモモフェチ疑惑』」
「あややや、私も気をつけねば……」
「こらー! いくら文様とにとりだからってー!」
「私、魔理沙のところ行ってくるー」
「私は取材があるのでこれで。次の文々。新聞もよろしく」
 僕が背中の刀を抜こうとすると二人は、言い訳を置いてさっさと逃げていく。
 もう……。
 ホントに、気になるだけッスよ。





 次の日の文々。新聞の記事を見て僕はすぐに文様を探し始めたッス。記事にはこのようなことが書かれているッス。


 文々。新聞 長月の七

 白狼天狗、その瞳の向こうとは?

 山の哨戒を担当してる白狼天狗『犬走椛』氏が最近とあることを気にかけている。本人に聞いても答えてくれなかったので本誌が独自に調べを進めることにした。
 犬走氏の見つめている河の下流の方向には、スキマ妖怪の式の式こと『橙』氏がいた。彼女は暇があるとここでよく昼寝や日向ぼっこをしているらしい。それ以外に変わったことはしておらず、他の哨戒天狗や近くに住んでいる河童も特に気にしてはいないようだ。
 他に何かあるか調べてみたが犬走氏の「千里先まで見通す程度の能力」で見える範囲には変わったものを見つけることができなかった。
 犬走氏はやっぱり彼女を気にかけているのか? それとも違うものを見ていたのか?
 もし前者だとしたらそれはどういう理由で見ていたのか。何もしてない彼女を着にかける理由とは。
 本誌は引き続き取材を進めていく方針だ。
(射命丸文)


 僕はそろそろこのパパラッチぷりをどうにかしないといけないと思うッス。でも、この方が僕なんかの注意を素直に聞くとは到底思えない。
 それにこの方の新聞はとにかく早い。昨日取材してたと思ったらもう新聞の記事にしている。そしてそれがすでにこうして広まってる。これで面白ければ言うことなしなんッスけどね。
 少しでも、せめて続報を止めないと……。そう思って山を探したものの、すでに天狗仲間には話は広がっていたッス。
「椛~、好きな人ができたんだって?」
「可愛いネコさんだねぇ」
 と、新しいネタを見つけた文様と同じ表情で冷やかされた。鴉天狗ってこんな人たちばかり……。同じ部隊の天狗にも、
「椛さん、文様の新聞読みましたよ。詳しく聞かせてくださいよ~」
「私にも紹介してくださいよー」
 ……尻尾を振りながら興味しんしんに聞かないでほしいッス。
 山にはいない。次はどこだろうと空を探してると、一匹のねずみがいた。
「狭い狭い幻想郷、そんなに急いでどこへゆく?」
 と手には文々。新聞。
 チクショー、文様のばかぁぁぁぁぁ。
 逃げるように河のほうへやってきた。幸いそこには知ってる顔もおらず、僕を『そういう』目で見るような妖怪もいない。やれやれ。
 空を飛ぶのをやめて、しばらく歩くことにした。
 あの子の名前のような色をした木々は、僕と同じ名前の葉を付けている。もうすっかり秋になった。今年もいろいろあったけど、特に変わりなく終わりそうだ。ちょっと気が早いッスね。
 そんなことを考えてると湖まで来てしまった。今日は霧も薄く、散歩するにはいいかもしれない。
 同じことを考えてるのか、知ってる後ろ頭とリュックサックを見つける。
「お~い、にとりー」
「おっ、椛じゃん。文様だったら見てないよ」
 まるで僕が何をしているのか分かったような口ぶり。いや、分かるか。
「そう……。早く止めないといらぬ噂が飛び交うことになりそうだよ」
「あはは、でも気にしてるのは事実じゃん?」
「な、何を言いまッスか。ぼぼ、僕は気には……してるッスけど。でもホント、気にしてるだけッスよ」
 僕の反応を見て、弱みを握った文様のような顔になるにとり。う~、幻想郷はこんな人ばっかりッス。
「いっつも遠くから見てるばかりだよね。話したことなんてないでしょ?」
「……うん」
「話がしてみたい?」
「そりゃ……」
 もちろん、あの可愛い化猫さんがどんな方なのか気になるッス。でも僕みたいな下っ端哨戒天狗が話しかけていいものなのか……。いやいや、それは階級とか上下関係とかの気にしすぎッス。天狗社会ではあたりまえだけど山の外に出たらそれはあまり関係ないってにとりも言ってるし、文様だって上下関係とか関係なしに取材をしてたり、僕の考えすぎなんじゃないかと思うッス。
 でも、天狗は怖がられるかも。そんなことを考えてるとなかなかできないッス。
「今までそうだった私が言うのもアレだけど、もうちょっと積極的にいってもいいんじゃない?」
「そうなんッスけど……ね」
「というわけで、今からお話しするっ。そこの化猫さんもね」
 とにとりが誰も居ないと思ってた方を見る。その視線の先を見ると、木陰に隠れている一匹の猫さん。僕がいつも見ている黒猫さんがそこにいたッス。
 あまりに急なことで心臓に槍が刺さったような衝撃。そのダメージがあっという間に頭に上って体が熱くなる。
「あ、あの……」
 化猫さんが恐る恐る僕たちのところにやってくる。
「さ、自己紹介だよ」
 にとりが両手をパンと叩く。ハッと我に返った。と、とにかくしゃべらないと。自己紹介ッス、自己紹介。
「わ、私は白狼天狗の犬走椛っすすすす。ふ、ふふ普段は妖怪の見張りや警備とか
を勤めてままます」
 あ~、もう落ち着け僕。こんなかっこ悪いところいきなり見せられないよぉ。一人称変わってたりして、あ~もぉ~。
 ドキドキしながら彼女のほうを見てみると、うつむきながら、もじもじしてる。か、可愛い……。近くで見るとこんなに可愛いんだ。
「……橙でしゅ。八雲藍様の式神してます」
 橙。だいだい色と書いて橙。この時期にふさわしい色の名前ッス。
「橙はどうしてここに来たの?」
 にとりが勝手に話を進める。こっちも心の準備とかががが。
「新聞」
 小声で一言。なんとか聞き取れたッス。
「新聞に、私を見てる人がいるって」
 文様のばかぁぁぁぁぁ!
 もう絶対取材の手伝いなんかしてやるものかぁぁぁぁ!
 という心の叫びを飲み込みつつ、なんとか平常心を保つ。
「それで、どんな天狗なのか気になったんだね」
 にとりの言葉にコクコクとうなずく橙。
「だって椛」
 急に話を振られて再び槍が刺さる。だいぶ前に山の神様(小さいほう)と麻雀をしたとき、チャンカンされたときと似たような衝撃。役は国士無双だったッス。
「椛は橙とどうしたい?」
 どうしたいって……、お話して、一緒にお昼寝したり、とにかく一緒に居たいッス。
 とは口に出せなッス。
「お友達に、なってくれまッスか?」
 これが精一杯ッス。
「うん」



 

 次の日。僕は、いつも見ていた場所にやってきた。
 彼女がいつも日向ぼっこをしている場所。ちょうど大きな岩の上に陽だまりができるように枝がこの場所を避けている。偶然にしてはよくできた場所だと思うッス。
 で肝心の橙さんはいない。
 脳内集計『月刊もみもみタメ息ランキング』第3位のため息をつくと、陽だまりになってるところに腰を下ろす。ちょっと――だいぶ早く来すぎたッス。
 秋といっても残暑が残る時期。日は暖かくて絶好のお昼寝日和。異変らしい異変も最近はないし、山に進入して何かしようって輩もいない。至って平和ッス。
 そんな平和な日にこんないい場所に来て昼寝をしないわけにはいかない、なんて思ったときにはすでに横になってたッス。お昼の後ということもあって、うとうとしてきたッス。
 橙さん早くこないなぁ……。


 目を開けるとそこには逆さまの橙さんがいたッス。この陽気に負けないぐらいの暖かい笑顔で僕を見てるッス。
 でもこんなにまぶしいのに、何故だか僕の意識ははっきりしないッス。
「おはよう。やっとおきたー」
 昨日のモジモジした雰囲気とは打って変わって、ハキハキとした口調で僕に寝起きの挨拶。耳をぴくぴくと動かしてとても元気そうッス。
 でもどうして彼女は逆さまなんだろう?と考えてみる。その間も橙さんは僕を見下ろしている。顔と顔の距離も結構近く、ちょっとどきどき。
「ちょっと、早く起きてほしいかな……。足しびれちゃって」
 という発言。枕なんてないはずなのに頭にはやわらかい感触。
 ――つまり膝枕。
「ちちちちちち、橙さん」
「にゃあ!」
 僕があわてて飛び起きると、隣には目をパチクリさせた橙さん。アレ? 今さっきと違うッスね。
「びっくりしたぁ……」
「僕もッス……」
 多分、橙さんと僕とでびっくりした箇所は違うと思う。橙さんは僕が飛び起きたことに驚いてる。
 で僕はふと思った。橙さんの状態がさっきと明らかに違う。僕の頭のあった場所には何もない。つまりはさっきの膝枕は夢ッス。うん、そうッス。じゃないとあんなことしてもらえるはずがないッスね。あはは……。
 そこまで考えが行き着くと、隣でちょこんと正座している橙さんを見る。でも思わず目をそらしてしまった。
「どうしたの?」
「いえ……なんでもないッス」
 なんか、恥ずかしいッス。
 夢とはいえ、あんなにいい笑顔で、膝枕してもらってて、なんか恋人同士みたいだったッス。まだ知り合って二日目なのにッスよ。そんな夢見ちゃうなんて……。
 こんなときどういう顔をすればいいのか分からない。
 そしたら頭の中のもう一人の僕がこう言ったッス。
(笑えばいいと思うよ)
 なので笑ってみた。そうッスね。笑って誤魔化すッス。
 橙さんは不思議そうな顔をして僕を見てる。
 なんか、マヌケ。


「じゃあ、橙さんってあのスキマ妖怪の式?」
 こくこくと橙さんはうなずく。
 スキマ妖怪こと『八雲紫』といえば幻想郷を作ったといわれている賢者の一人ッス。とある人間曰く『あらゆる境界を操る程度の能力』には弱点らしい弱点が存在しない、といわれてるぐらいには強い妖怪。その話抜きにしても、僕たち天狗が束になったところでかなうとは思えないほどの存在であるのは確か。命名決闘法案――スペルカードルールがなければ文様ですら足元に及ばないだろう。
 と言っても、いつぞやの天人の異変のようなことをしなければ何もしてこないし、文様の取材に応じたりと結構友好的。そう思いたいッス。
「正確には『式の式』だよ。紫様の式は藍様で、私はその藍様の式」
 それでもスキマ妖怪に関わりのある妖獣には変わりないッス。なんか、とんでもない猫さんと友達になった気がするッス。
「でもねでもね、紫様も藍様も優しいから」
 僕の不安を読み取ったように言ってくれた。自分の主に当たる妖怪がどういう存在なのかを分かってるようだ。確かにそのクラスの妖怪となると僕もまともに戦える気がしないッス。でも、橙さんとかに危害を加えるようなことをしなければ大丈夫だと思うッス。そもそも仲良くしたい相手に危害を加えるなんて考えられないッスけどね。
「……最近はかまってくれないけど」
 と橙さんはうつむいてしまう。スキマ妖怪は幻想郷と外の世界を隔てる博麗大結界を管理していると言われている。その妖怪とその式だから、なにかあったときにはて忙しくなるのだろう。なにがどう忙しいのかは検討もつかないッスけど。
 それを橙さんも分かっている。けどやっぱりさびしいッスね。
「それでここでお昼寝して時間をつぶしてたんッスね」
 こくりとうなずく。
「前はね、神社にいたんだけど。旧地獄の異変のあと、変な猫が住み着いちゃって……」
 その異変は文様が首を突っ込んだから新聞で読んで詳しく知ってるッス。旧地獄でとあるカラスが幻想郷征服をたくらんでたそうッス。で、巫女(紅白のほう)が文様のサポートをして異変を解決したらしいッス。どこまでが本当か分からないけど新聞にはそう書いてあったッス。そのカラスは山の神様のところでなにかしてるそうっすけど、そこからはよく知らないッス。多分、神社に住み着いた猫ってのはそのカラスの友達だったと思う。やっぱり新聞があってればの話ッスけどね。
「あの猫ね、私の隠してた『銀のレバ剣』食べちゃうんだよ! それを霊夢に言ってもなんにもしないしさぁ……。そんなんだから神社にお賽銭入んないんだよね。……そのあと藍様に『金のグングニル』たくさん貰ったけど」
「ならよかったんじゃないッスか」
「だってー」
 とほほを膨らませてすねてしまう橙さん。気持ちは分からないでもないッス。僕だって楽しみにしてたお酒を文様に飲まれて悔しがったこともあったッス。そのあと何にもなし。でも、猫にとって『銀のレバ剣』は結構ご馳走らしいッスから、よっぽど楽しみにしてたッスね。
 プンプンと機嫌を損ねてしまった橙さんの頭をよしよしと撫でる。
「今度から僕に預けるッスよ。猫型の天狗もロボットもいないッスから、取られそうになるってことはないッスよ」
「ホント?」
「それに、僕の能力があれば誰かが取ろうとしたときに分かるッス」
 これも本来の用途じゃないッスけど、橙さんのお役に立てるならお安い御用ッス。
「うん……ありがと」
 次の日、橙さんはたくさんの『金のグングニル』と『銀のレバ剣』を持って僕の家までやってきたッス。にとりはそれを見て大笑い。文様はニヤニヤしながら写真を撮ってたッス。





 いつもとは違う山の雰囲気。山の外の妖怪や人間からすれば、いつもピリピリしてる山に祭のような空気が漂う。天狗が酒を持ち寄り、河童に絡むイベント。今日は恒例の宴会ッス。
 山に守矢の神様が住むようになって宴会がまた変わったようが気がするッス。というのも、山以外に住んでいる妖怪も萃まるようになったからッスね。文様は取材の相手が多くて忙しそうにしてるし、にとりは好きな人間が来るってうれしそうにしてたッス。
 そして僕はというと……。
「はぁ……」
 お酒臭いため息ッス。その匂いはネタにつまったはたて様のため息と同じようなものッス。
(とはいうものの橙さんは来ないッスよね)
「な~に~、また橙のこと考えてるの~?」
 ブッ!
 光学迷彩を使ってないのににとりが近くにいるのに気がつかなかった。前にもこんなことがあった気がする。
「あやや、ネタの予感ですね」
 今度は文様も出てきた。やっぱりデジャヴ。
 左ににとり、右に文様、両手に花……ってわけじゃなく、そもそも僕も女なわけで、やっかいなものに絡まれた感じ。どうあってもやな予感ッス。
「で、どうなの? 好きなの?」
「好きって……誰がッスか?」
「またまたぁ、私知ってるんだよ。あれからほとんど毎日逢ってるでしょ」
「私も進展があったらすぐにでも記事にできるように張ってますからね」
 二人とも何してるのっ? そんなに暇ッスか。
 するとお二人は顔を合わせて、
「だって……」
「ねぇ……」
 だってじゃないッスよ文様! それに共感しないでにとりっ!
「じゃあ、どうなの?」
 どうなの? って聞かれても。
「そりゃ……ほとんどじゃなくて本当に毎日逢いたいッス。一緒にいて楽しいッスもん。にとりや文様、はたて様と呑んだり、麻雀したりするのももちろん楽しいッス。でもそれとは違う楽しさっていうんッスかね、そんなのを感じるッス。こう……胸がポカポカしてきて、秋なのに僕と橙さんのところだけ春が来たみたいな感じッス。女の子同士なのにそんなことを思うなんて、なんなんッスかね……」
「恋だね」
「恋ですね」
 二人同時に言われた。それも即答ッス。なんでッスか?
「だって、私が魔理沙に感じてるのと同じだもん」
「私だって、恋ぐらいしたことありますからねぇ。鴉天狗千年は伊達じゃないですよ」
 恋ッスか……。物語みたいに温かくて、うれしいものなんッスね。
 小さい頃、先輩の鴉天狗(文様やはたて様じゃないッスよ。今は結婚してご隠居中)を好きになったときとはぜんぜん違うッス。あこがれとか、そういうんじゃなくて、こう……うまく言葉にできないッスけど、いいものなんッスね。
「ほら、椛」
 にとりの視線の先、二本の尻尾に緑の帽子、愛らしい大きな目は僕の恋する瞳だ。
「えへへ、来ちゃった」
「ちちちち、橙さん?」
 まさか山まで来てくれたんッスか?
 来てくれるとは思ってなかったら――ホントは来てほしいって思ってたッスけど――うれしいけど……心の準備ができてないッス。
「藍様や紫様についてきたの。お二人が山の神様のとこに行っちゃったから、今は私だけ」
 ということは……いやいや、にとりも文様もいるし――
「んじゃ、私は魔理沙を探してくるね」
「あやや、別のところでスクープの匂いがします。ではこれにて」
 二人が空気を読んだみたいにいなくなってしまった。
 そのままにとりがいた場所に橙さんが座って、
「私もお酒持ってきたんだ」
 と出てきたのは一本のビン。『凋叶棕』とラベルに書いてあるけど読めないッス。中国語?
「ティアオイエツォンって読むの中国語で朽葉色って意味。この時期にいいお酒ないですか? って紫様に聞いたらこれがいいって」
「いいッスね。他の天狗様は強くて呑めて酔えればなんでもいいって感じッスから、こういう風情があるのは面白いッス」
「えへへ、ありがと。お酌するよ」
 と夕焼けのようなまぶしい笑顔の橙さん。それに僕も負けないぐらいの笑顔で返す。
「ありがとッス」
 お猪口に注がれる透明な液体。そこに橙さんの顔が映ってなんだかドキドキするッス。直視したらもっとドキドキするッスけど。
 橙さんも自前のお猪口に同じお酒を注いで、
「カンパイ」
「乾杯ッス」


「それでねぇ~、チルノちゃんが『バカって言うほうがバカなのよ』って暴れだしたところに、大ちゃんのアルゼンチンバックブリガーが見事に決まってチルノちゃんばたんきゅーしたんだよぉ」
 呑み始めてから1時間ほど、橙さんが明らかに酔っ払っている。口調もいつもより砕けた感じになってきている。顔もすでに紅葉みたいに赤くなっていて、それもまた可愛い。でも、
「橙さん? 酔ってないッスか?」
「よってないにょ。酔ってるって言ってるほうが酔ってるんだにょ~」
 まさにさっきの話である。これはどう見ても酔ってるでしょう……。『にょ』なんて語尾、幻想郷じゃ流行らないッス。早苗さんが聞いたら『そのキャラ作ってるでしょ』と言われそうな感じ。
 橙さんが急に黙りこんだ。まさか、ポロロッカするんじゃ。
「にゃ~」
 と思って回避結界を構えていたけど、予想外の攻撃を受けた。
「にゃにゃにゃ~」
「なななななな、ちちちち橙さん」
 突然抱きつかれたッス。そして頬すりのコンボ。追撃に鳴き声、僕のライフはあっという間に削れていったッス。
「にゃにゃ? 抱きついちゃだめにゃの?」
「いえ……そういうわけじゃ、むしろうれし――」
 って僕は何をいってるだー。
「ならいいにゃ。こうしてる幸せにゃの」
 撤回する間もなく橙さんは追撃の発言。ライフはほぼ9割持っていかれた気がする。死ななきゃ安いと思うけどいっそK.Oしてほしい。むしろK.Oされたい。
 可愛すぎて生きてるのがつらいっていうのはこういうことを言うのかもしれないッス。犬走椛はこうしてまた賢くなりました。
「みゃ~みゃ~」
 多分『ねぇねぇ』と言いたいのだろう。そんな感じに聞こえたッス。
「なんッスか?」
「頭にゃでにゃでしてぇ」
 最後のライフを削るにはいささかオーバーキルじゃないでしょうか。このままでは第2ラウンドのライフも持っていかれてしまう。
 そんな現実逃避してるときも橙さんはうるうるな目で僕を上目遣いで見てるッス。すっごく撫でたい。撫でていいよね。そう言ってるし、うん。
 そう思って右手のお猪口を置いて、頭に触れようとする。ネコミミがぴくぴくい動いてるのがすごくかわいらしい。このフサフサのネコミミもなでなでしたいッス。
 内心はすごくドキドキっす。それでもって手は震えてて、うまく動かない。
 息を飲んだ。お酒のせいかの体がすっごく熱い。こんな状態で橙さんに触れたら火傷させちゃうんじゃないかとよく分からないことを思った。
 それでも撫でたい頭があるんだぁ。
「ちぇ~ん、帰るよ~」
 反射的に手を引っ込めた。
「あ、らんしゃまぁ~」
 僕の元から橙さんが離れる。そして声のしたほうに駆けていった。僕がそれを目で追うと、先には九つの尻尾を持った狐の妖獣がいた。
 あれがスキマ妖怪の式『八雲藍』なのだろう。実際に会うのは初めてだ。
「橙、呑みすぎちゃったの?」
「ひゃい~、たくさん呑んじゃったぁ。楽しかったですよぉ。らんしゃまは?」
「私は山の神様と紫様とでお話してただけだから、呑んでないよ。でも橙が楽しかったならよし!」
 と親指をグッと立てた。橙さんはそれでいいのかまたにゃ~にゃ~鳴いて自分のご主人に抱きついた。
「じゃあ、帰ろうっか」
「うん。あ、またねー」
「うん、また……」
 橙さんが僕に手を振ってきたので僕も手を振って返した。シアワセな時間はあっというまに流れて、余韻を味わう暇すらなかったッス。
 手をつないで歩く二人をボケーっと見てると、橙のご主人がこちらを見ているのに気がついた。普通の天狗や妖怪ならそれにすら気付かないだろうけど、僕の能力でそれが見えた。その顔は『あんた橙のなんなのさ』と言いたげな顔。
 なんなのさと聞かれれば多分『友達』としか言いようがない。今は少なくともそう。橙さんもそう思ってるだろう。
 でもどうやら僕はそれ以上の関係を望んでいるみたいッス。
 さっきの同じ状況をにとりがやったらドキドキしない。文様がやったら軽くあしらうし、萃香様がやったら全治数週間の怪我を負うようなことになって、それどころじゃないと思うッス。後者二つの状況になる前にさっさと逃げるッスけど。
 橙さんだからこそ、ドキドキした。今はこうしてまたそんなことをしたいなんて思ってたりするッス。つまりこれが文様やにとりが言ってた『恋』ってことなんだろうと思う。
 いつの間にやらいなくなっていた二人のいた場所を眺めて、残ったお酒をグイっと飲み干す。宴会はもうすぐお開きになろうとしていた。
 後日、文様の新聞にこの記事が載り、僕たちはお酒を呑んだみたいに顔を紅くしたッス。





 続きは本でっ!
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

ブログパーツなどなど
プロフィール

雨竜三斗

Author:雨竜三斗
雨竜三斗は文章系創作活動の名前

雨男は動画作成時の名前

pixiv ニコニコ mixi


Circle.ms

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。